この記事では、建設業、飲食業などの個人事業主の屋号名義の銀行口座について、屋号付き口座を作るメリットや銀行の選び方まで、税理士がわかりやすく解説しています。
税理士のざいりです。
本業では、税理士として個人事業主の開業や融資のお手伝いをさせていただいています。お客様からよく受ける相談をまとめましたので、ぜひご参考にどうぞ!
この記事がオススメな人
- 個人事業主、フリーランスで銀行口座を開設したい人
- 屋号名義の口座を開設する方法を知りたい人
- どの銀行で事業用口座を作ればよいか悩んでいる人
個人事業主として起業したのですが、事業用の銀行口座は作った方が良いですか?
事業用の銀行口座は作っておいた方が良い。銀行によっては、屋号名義の口座を作ることもできるよ。
屋号名義の口座があると、何か良いことはありますか?
あと、どの銀行で作れば良いですか?
屋号名義の口座のことを「屋号付き口座」と言うんだけど、今回は「屋号付き口座」について解説するね。
個人事業としてビジネスを始めると売上金を回収や経費の振り込みなどのお金のやり取りが発生します。
基本的に、これらは銀行の預金口座を利用して行います。
そのため、個人事業主として開業したあとの最初のステップは、銀行口座の開設になります。
「すでに持っている個人の銀行口座で良くない?」
「事業用に新しく銀行口座を作る必要がある?」
「プライベート用と事業用で口座を複数持つと管理が大変・・・」
もしかしたら、個人事業の銀行口座開設と言われて、このように思った方もいるかもしれません。
しかし、個人事業用の口座開設にはたくさんのメリットがあります。
例えば、お客様から信用を得られやすいし、事業資金の管理も容易に行うことができます。
おすすめは「屋号名義の銀行口座(屋号付き口座)」です。
この記事では、屋号付き口座を開設するメリットや、開設にあたっての金融機関の選び方、開設のための必要書類などについて、税理士が分かりやすく解説します。ぜひ参考にしてくださいね。
屋号付き口座とは?
屋号とは、個人事業で使うビジネス上の名称をいいます。
株式会社などの法人でいうところの会社名に近いイメージです。
屋号付き口座とは、個人事業主の屋号を名義とする銀行口座です。
事業でのみ使う屋号を名義にした銀行口座のため、屋号付き口座は事業用の銀行口座になります。
屋号付き口座
個人事業の仕事上で利用する屋号名義の預貯金口座のことを言います。
この記事を読んでいる人の中には、屋号を付けていない人もたくさんいると思います。
株式会社と違って、個人事業では屋号を必ず付ける必要はありませんが、屋号を付けることをおすすめしています。
なぜなら、事業内容が相手に伝わりやすく、お客様からの信用を得られやすいなど、屋号にはメリットがたくさんあるからです。
屋号を付けるメリットや屋号の決め方を知りたい場合は、次の記事で分かりやすく解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
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屋号名義の口座を開設するメリット
屋号付き口座を開設することで、次の5つのメリットがあります。
屋号付き口座のメリット
- お客様からの信用を得られる
- 事業のお金の入出金が把握しやすい
- 確定申告が楽になる
- 事業用の融資を受けられる
- 従業員と共有できる
次の章より、それぞれについて詳細に解説します。
お客様からの信用を得られる
屋号付き口座の最大のメリット、それは「お客様からの信用が得られやすい」ことです。
お客様との取引で1番信用が必要となる場面は、お客様に代金を振り込んでもらうときです。
例えば、あなたがクライアント側だったとします。代金の振込み先の指定口座が個人名義だったらいかがでしょうか?
ネットショップ経営の場合、顧客はリピーターでなければ不特定多数のため、顧客からは販売者のことが見えません。
建設業や不動産業など大きなお金が動くビジネスでも、個人名義の銀行口座の振込先では、顧客は次のように不安を持つかもしれません。
「この取引先は、会社ではないの?」
「詐欺ではないのか?」
「代金を支払って大丈夫なのか?」
一方で、屋号名義の銀行口座であれば、会社である屋号が名義人として載っているため、支払うクライアントも安心です。
屋号名義の銀行口座と、個人名義の銀行口座を比較すると、顧客からの見え方が違います。お客様の信用を得るためにも、屋号付き口座の開設をおすすめします。
ビジネスは信頼関係で成り立っています。開業して間もないときに仕事をもらうためには、特に「信用」が大切。少しでも多くの信用を得るためには、屋号付き口座の方が良いですよ。
事業のお金の入出金が把握しやすい
事業の入出金とプライベートの入出金をカンタンに区別するために、屋号付き口座はとても便利です。
個人事業主として起業したあとは、売上の回収や、仕入代金・事務所の家賃・消耗品などの経費の支払いによって、事業用の入出金が頻繁に行われることとなります。
事業用とプライベート用の取引を同じ口座で利用する場合、通帳の入出金履歴を見ても、その支払いが経費によるものか、プライベートのものかが判断できなくなってしまいます。
それでは毎月の固定費が分からないし、仕事でお金が増えているのか減っているのかすらも把握することができません。
また、固定費が分からないと、正確な利益も把握することもできません。
事業を営むうえでは、固定費の把握や資金繰りの管理が必要です。
わたしは税理士としての経験上、多くの個人事業主や法人を見てきましたが、事業とプライベートを分離してお金の管理ができる人ほど事業が伸びている印象があります。
そのため、事業用の屋号付き口座を作って、事業用とプライベートのお金は分けて管理することをおすすめします。
利益の把握とお金の管理はビジネスの基本だよ。事業用の屋号付き口座を作って、しっかり資金管理をしよう。
確定申告が楽になる
屋号付き口座として、事業専用の銀行口座を作ることで確定申告が楽になるメリットがあります。
確定申告では、その1年間の売上と経費を集計して、その集計結果をもとに税金を計算して支払います。
もしプライベート用と事業用の口座が同じで、事業の支払いとプライベートの支払いが混ざっていたらどうでしょうか?
1年間の支払い内容をすべて覚えていることは現実的ではないと思います。そのため、経費が少なく計上されたり、プライベートの支払いを誤って経費に入れたりしてしまうかもしれません。
事業用の口座とプライベートの口座を分けることで、あとから通帳を見返したときに事業用の入出金がひと目で分かります。
そのため、確定申告の手間が減って、作業が楽になります。
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また、屋号付き口座として事業用の預貯金口座を作ることは、税務調査対策としても重要です。
個人事業主の税務調査では、プライベートの支払いが事業の経費に入っていないかが特にチェックされます。
事業用の口座を使っている人と、事業用とプライベートの口座を分けていない人では、どっちが指摘を受けるリスクが小さいでしょうか?
一目瞭然ですよね。
税務署から疑いを持たれないように、事業用の屋号付き口座を開設することをおすすめします。
事業用とプライベート用の口座を分けるだけで、見違えるほど作業が楽になります。確定申告の作業に時間がかかっている人は、ぜひ試してみてください!
事業用の融資を受けられる
事業用の銀行融資を受けるためには、屋号付き口座などの事業用口座が必要な場合があります。
事業を営むうえで、銀行から融資を受けたいときが出てくると思います。
すべて自分で稼いだお金で賄うことができれば良いのですが、実際の事業はそうカンタンではありません。
例えば、経費の支払いや従業員の給料の支払いに充てるための運転資金であったり、車や機械工具などの新しい設備を買うための設備資金が必要になるときは必ずあります。
銀行の融資には、何のために融資したお金を使うのか目的が決められています。
ただお金が必要だからという理由では借りることができません。
例えば、銀行から借りると言っても、次のように理由はたくさん考えられます。
・事業の運転資金に使うのか?
・事業の設備投資のために使うのか?
・住宅を買うため(住宅ローン)に使うのか?
・子供の学費に使うのか?
・生活の安定のために使うのか?
銀行目線で考えると、事業用とプライベート用の口座が同じ場合、事業用で借りてもプライベートに使うのではないかと疑いを持ちます。
そのため、事業用の融資の場合、事業用の銀行口座でないと融資を実行できないケースがあります。
実際、わたしのお客様でも融資を受けるために、銀行から個人事業用の口座開設が条件とされたこともあります。
スムーズに融資を受けるためには、屋号付き口座を最初から準備しておく方が良いでしょう。
融資を受けたいなら、絶対に屋号付きの事業用口座を作っておくべきだよ。
従業員と共有できる
屋号付き口座があることで、従業員やアルバイトのスタッフと通帳の共有がしやすくなります。
売上金の口座への預入や通帳記帳など、アルバイトに通帳を預ける機会があるかもしれません。
その場合に個人名義の口座だと少し不安ですよね。
事業用の口座なら、個人名義の口座よりもスタッフに通帳の作業をお願いしやすいため、スタッフを雇った後を見据えて事業口座を用意しておきましょう。
プライベートの通帳は見せたくないですよね。その点、事業用であればスタッフに見られても安心ですよ。
必要な書類
屋号付き口座を開設するためには、一般的に次のような書類を準備します。
・顔写真付きの本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
・印鑑
・個人事業の開業届の控え
・確定申告書(税務署受付印のあるもの)
最初から全部準備する必要があったり、一度来店してから必要な書類の案内があったりと、銀行ごとにそれぞれ手順が違うようです。
そのため、口座を開設したい銀行のホームページなどを確認してください。
金融機関の選び方
個人事業の屋号名義の口座は、多くの銀行で開設することができます。
ただ一口に銀行と言っても、メガバンク、地方銀行、ネット銀行、信用金庫など種類がさまざまです。
この章では、それぞれの銀行口座を開設するメリット、デメリットを説明します。
メガバンク、都市銀行
メガバンクと都市銀行のうち、屋号付き口座を開設できる主な銀行は次のとおりです。
開設可能な主な銀行
- 三井住友銀行
- みずほ銀行
- 三菱UFJ銀行
- りそな銀行
また、メガバンク、都市銀行の口座には、次のメリットやデメリットがあります。
メリット
- 知名度が高く、知らない人はほとんどいない
- ATMが多いため、全国どこでも入金や振込みができ、通帳の記帳もしやすい
デメリット
- 開設まで時間がかかる(三井住友銀行の場合、審査に1ヶ月程度かかる)
- ネットバンクに比べて手数料が高い
- 個人事業の場合、事業用融資はほぼ受けることができない
手数料を抑えたい場合や、ATMなどの利便性を求める場合はメガバンクですね!
地方銀行
地方銀行は、各都道府県や地域ごとにある地域密着型の銀行です。
例えば、東京都ならきらぼし銀行、神奈川県なら横浜銀行、千葉県なら千葉銀行などがあります。
詳しくは、屋号付き口座を開設したい地元の地方銀行へお問い合わせください。
地方銀行で屋号付き口座を開設するメリット、デメリットは次のとおりです。
メリット
- その地域で知名度が高いため、地元で利用している人が多い。
- 地域密着で小規模事業者を応援する性格のため、事業融資を受けやすい。
デメリット
- ネットバンクに比べて手数料が高い
- メガバンクと比べてATMの数が少ない(その地方以外は、ほぼATMが無い)
地域での知名度は抜群なので安心です。また事業者を応援してくれるのもありがたいですね!
信用金庫
信用金庫は、各都道府県や地域ごとにあり、地方銀行よりもさらに地域密着で、かつ小規模事業者に寄り添った金融機関です。
例えば、東京都なら城南信用金庫、神奈川県なら横浜信用金庫、千葉県なら千葉信用金庫があります。
詳しくは、屋号付き口座を開設したい地元の信用金庫へお問い合わせください。
地方銀行で屋号付き口座を開設するメリット、デメリットは次のとおりです。
メリット
- その地域で知名度が高いため、地元で利用している人が多い。
- 地域密着で小規模事業者を応援する性格のため、事業融資を受けやすい。
デメリット
- メガバンクや地方銀行よりATMが圧倒的に少なく知名度が低い。
- 口座を開設できるエリアが限られている。
個人事業主でも事業融資を受けやすいのは良いですね!
ネット銀行
ネット銀行(ネットバンク)とは、実店舗を持たず、インターネット上の取引が中心となっている銀行のことをいいます。
ネット銀行のうち、屋号付き口座を開設できる銀行には次のようなものがあります。
開設可能な主な銀行
- 楽天銀行
- PayPay銀行(旧ジャパンネット銀行)
- GMOあおぞらネット銀行
ネット銀行で屋号付き口座を開設することで、次のようなメリット、デメリットがあります。
メリット
- 口座開設が早い。(即日~2週間程度)
- 手続きがすべてインターネット上で完結できる。
- 手数料が安い
デメリット
- 実店舗がないため、トラブル時の対応に不安がある。
開設のスピード感や手数料の安さが魅力ですね!
屋号のみの名義の口座を作る方法(ゆうちょのみ可能)
紹介した銀行に共通してるのですが、どの銀行も屋号のみの名義で口座開設をすることができません。
つまり、屋号+本名、または本名+屋号といった名義の口座になります。
しかし、業務上の必要性などの理由から屋号のみの口座を作りたいという方はとても多いです。
金融機関の中で、唯一ゆうちょ銀行が屋号名義のみの振替口座を作ることができます。
ただし、ゆうちょ銀行で屋号名義の口座を開設するためには、屋号名で活動していることがわかる資料を提示したうえで審査を受ける必要があります。
また注意点として、総合口座ではなく振替口座となっている点です。
振替口座は、商品の代金などの集金などを目的とした決済専用の口座のため、通帳がありません。
そのため、メインバンクとして利用するには使い勝手が良くないため、サブの口座で検討してみてはいかがでしょうか。
振替口座なので使い勝手はあまり良くないです。
絶対に屋号だけでないとダメという場合でなければ、その他の銀行で屋号付き口座を作ることをおすすめするよ。
まとめ
この記事では、個人事業主の屋号付き口座(屋号名義の銀行口座)を開設するメリットや、開設にあたっての金融機関の選び方、開設のための必要書類などについて解説しました。
屋号付き口座の5つのメリットを紹介しました。
屋号付き口座のメリット
- お客様からの信用を得られる
- 事業のお金の入出金が把握しやすい
- 確定申告が楽になる
- 事業用の融資を受けられる
- 従業員と共有できる
屋号付き口座にはたくさんのメリットがありますので、口座を持たないのはもったいないです。
ぜひこの記事を参考にして、個人事業のスタイルに合った金融機関で、事業用の屋号付き口座を開設することをおすすめします。